マトリクス表から読み解く!ゲームプレイヤーのジャンル嗜好
代表的な娯楽メディアとなったモバイルゲーム。いまでは世界のゲーム人口は26億人、16以上のゲームジャンルに約100万個のゲームが存在します。
けれど、ゲームプレイヤーとゲームジャンルの関係については知られていません。プレイヤーはひとつのジャンルにこだわるのか、それとも似たジャンルやまったく異なるジャンルもプレイするのか?カジュアルゲームプレイヤーはカジュアルだけに傾倒するのか、RPGなどまったく異なるジャンルもプレイするのか?このようなプレイヤーのジャンル嗜好は明らかにされていません。
近年、競合が少ないニッチなマーケットを狙ってジャンルを多様化するゲームスタジオが増えています。AppsFlyerのクライアント歴3年以上のゲームスタジオ800社を分析したところ、次のことがわかりました。
- 2018年~2020年の2年間に、ジャンルを多様化しているゲームスタジオが28%いるのに対し、18%はジャンル数を減らしていた。ジャンル数が変わっていないゲームスタジオは54%。
- 2020年には、6.5%のゲームスタジオが5つ以上のジャンルを運営。約30%のゲームスタジオが2~4つのジャンルを運営。
また、マーケターは常にビジネスを成長させる機会や、正確にターゲットを絞ったキャンペーンで成果を向上させる方法を模索しています。その手法のひとつにゲームジャンルのセグメント化があります。
今回の調査では、事業拡大を狙うゲームスタジオがどのジャンルをかけ合わせるのが好ましいか、またAppTrackingTransparencyフレームワークの本格導入でIDFAの取得が困難になったいま、マーケターはどのジャンルにターゲットを絞るのが効果的か、マトリクス表を使ってゲームジャンル間の関係をご紹介します。
ゲームジャンル間の関係を調べるために相関分析を実施
現在のアプリストアのカテゴリをもとに、3億5千万台の端末を分析しました(対象期間:2020年11月~2021年2月)。
ゲームジャンルの相関性を国ごとに整理したマトリクス表はこちらをご覧ください。
マトリクス表の読み方
横列:横列のゲームジャンルのプレイヤーが、縦列のゲームジャンルをプレイしている割合を表しています。
例)パズルゲームの列を見ると、パズルプレイヤーのうち26%はアクションもプレイし、パズルプレイヤーのうち38%はカジュアルもプレイしています。
縦列:縦列のゲームジャンルが、横列のゲームジャンルのプレイヤーにプレイされている割合を表しています。
例)パズルゲームの行を見ると、カジュアルゲームと交差するマス目に19%とあります。この19%は、パズルゲームがカジュアルプレイヤーにプレイされている割合であり、これはカジュアルゲームをプレイする38%のパズルプレイヤーと同じであることを意味します。
ここでパズルゲームの広告キャンペーンを打ち出すことにしたと仮定しましょう。キャンペーンのターゲットをカジュアルゲームプレイヤー(うち19%がパズルをプレイする)にするか、またはワードゲームプレイヤー(うち36%がパズルをプレイする)にするか、どちらを選ぶといいでしょう?
この場合は、パズルゲームとの相関性が高いワードゲームプレイヤーをターゲットするのが得策です。
CPM(インプレッション型広告)キャンペーンを運用する場合、カジュアルゲームプレイヤーをターゲットにして成功する確率はワードゲームプレイヤーの半分以下にしかなりません。アプリインストールごとにコストを払うCPIキャンペーンを運用するにしても、パズルゲームをかけ持ちする人口が多いワードゲームプレーヤーをターゲットの対象にするほうが賢明です。相関性が高いジャンルほど、良質なプレイヤーを獲得できる可能性が高くなり、離脱率をおさえることを期待できます。
マトリクス表の活用方法は以下をご覧ください。 ↓
主な調査結果
1) 市場規模がそれなりに重要:マトリクス表を見ると、アクション、カジュアル、アーケードが人気上位のジャンルです。これら3つのジャンルは、プレイヤーが他のゲームジャンルをプレイするか否かにかかわらず、一般的なスマホにインストールされる割合が高いことが考えられます。
実際、ひとつのジャンルをプレイし続けるプレイヤーの割合が高いジャンルは、16ジャンルあるうちアクションとソーシャルカジノの2つだけでした。平均的に大きな比率を占めるジャンルは、多くの場合がアクション、カジュアル、アーケードのような市場規模が大きいジャンルです。
ただし、縦列の説明で述べたように、ゲームジャンル間の相関性がより正確な意味を持ちます。
2) iOSとAndroidでは強いジャンルが異なる:OS別に分析すると、iOSとAndroidではジャンルの占有率に偏りが見られました。
Androidで他ジャンルをプレイする音楽ゲームプレイヤーの平均比率は、iOSの平均より140.8%高に。同様の傾向がアクション(56.7%)、アーケード(58.3%)、戦略ゲーム(38.7%)でも見られました。一方、iOSではパズル(27.8%)、ソーシャルカジノ(31%)、ワードゲーム(42.4%)を独占。
OS間で差が生じた理由は、各サブジャンルのOS占有率(Android + iOS = 100%と仮定)と国ごとに人気のジャンルが異なることが起因しています。Android優勢のジャンルは、AndroidとiOSのユーザー平均比率が76対24に。iOS優勢のジャンルは55対45でした。
3) ソーシャルカジノプレイヤーは、他ジャンルをプレイすることがほぼない:ソーシャルカジノは同ジャンルに傾倒するプレイヤーの割合がもっとも高かったゲームです。マトリクス表によれば、32%のソーシャルカジノプレイヤーが同ジャンルの別タイトルを1つ以上かけ持ちしており、ほかのゲームジャンルの平均と比べて7倍ほど高くなりました。
ソーシャルカジノプレイヤーが同ジャンルにこだわる理由は、ゲームの構造が関係していると考えられいます(注:ソーシャルカジノゲームはギャンブル目的や実際にお金を賭けるものではない)。
4) もっとも高い相関性を示したのは頭脳ゲーム:マトリクス表ではパズル、ワード、トリビア、ボード、カードといった頭脳ゲームをプレイするプライヤーの割合がミッドコア(アドベンチャー、シミュレーション、アクション、アーケード、レース)やハードコア(ストラテジー、RPG)よりも格段に高くなりました。
5) 同ジャンルにこだわるプレイヤーがいるかたわら、他ジャンルを複数かけ持ちするプレイヤーも:サブジャンル*別に分析した結果は以下のとおりです(ブログの最後にサブジャンルについて明記)。
先ほども述べたように、ソーシャルカジノだけに傾倒するプレイヤーの割合は32%で、これはほかのジャンルの平均よりも7倍多い数字です。ハードコアのプレイヤーも、同じハードコアの別タイトルをプレイする傾向が高く(他ジャンルの平均より57%高)、ハイパーカジュアルでも同様の傾向が見られました(他ジャンルの平均より20%高)。
一方でカジュアルはというと、ほかのジャンルと比べて同ジャンルを選ぶプレイヤーの割合がもっとも少なく、ハイパーカジュアルプレイヤーの65%、ソーシャルカジノプレイヤーの56%がカジュアルゲームをプレイしていますが、同ジャンルをプレイするカジュアルプレイヤーはわずか46%でした。
同様に、ミッドコアプレイヤーの57%が同ジャンルの別タイトルをプレイしています。これはハードコアプレイヤーの比率 (74%) より低く、カジュアルゲームとハイパーカジュアルゲームプレイヤーでミッドコアをプレイする比率 (65%) よりも低くなりました。
マトリクス表をビジネスに活用する方法
デベロッパー向け — 事業拡大に適したゲームジャンルはどれか把握できます。業界でもゲームジャンルの多様化が進んでおり、どのゲームジャンルを開発・制作もしくは買収するか、マトリクス表を活用して今後の方向性を見出すことができます。
マーケター向け — 以下のようなマーケティング活動を手がけることができます。
1) ユーザー獲得キャンペーンでテスト:相関性が高いジャンルは、ユーザー獲得キャンペーンを試験的に試みると良いでしょう。IDFAの取得が限られた状況下においてユーザーの行動パターンを把握し、広告のターゲティングをおこなうことが今後のカギを握ります。
2) 広告スペースを賢くマネタイズ化:広告収入をおもな収入源としているアプリは、自社アプリとの相関性が高いゲームジャンルの広告を優先できます。キャンペーンレベル(アドネットワークが提供できる範囲のジャンル/アプリリスト)で対象アプリをブラックリストまたはホワイトリストに登録できます。プレイヤーは自分の好みに類似したジャンルのゲームをインストール&プレイする可能性が高いため、結果として広告からの収益を上げることができます。
たとえパブリッシャー(広告掲載アプリ)がCPMベースで支払われていたしても、広告主やアドネットワークの成果にも注意を払わなければなりません。プレイヤーが相関性の高いゲームジャンルをインストールしてプレイすれば、アドネットワークはCPIやCPA(アクションあたりのコスト)キャンペーンによって収益が増え、結果として広告掲載アプリの優先度をはかるアルゴリズムができあがります。
ゲームジャンルの広告掲載アプリの価値を理解できれば、広告主はCPMを上げることができ、優良ユーザーが増えればアドネットワーク側にも利益があります。
さらに、マーケターは自社と同ジャンルのゲームアプリに広告を出稿できます。特に、同ジャンルのアプリをプレイする可能性が高いアクション、カジュアル、パズル、ワード、RPG、ソーシャルカジノが効果的です。
たとえ競合であっても、ライバル社のアプリに広告を打ち出す理由があります。たとえば、離脱しそうなプレイヤーを見つけても、自社が運営するその他のアプリを紹介できない場合などは、競合他社に対して適切(高価)な金額で広告を提供することができます。
3) クロスプロモーションの最適化:複数のジャンルを運営しているゲームスタジオであれば、マトリクス表を活用して広告キャンペーンの精度を高めることができます。
4) プライベート取引(非公開のオークションで一部の広告枠に入札できるようにすること):ジャンル [X] をプレイするプレイヤーがジャンル [Y] もプレイする割合が高い場合、ジャンル [Y] のゲームアプリに対してユーザー獲得キャンペーンのプライベート取引をおこなってみる価値があります(こうした入札はアドネットワークが代行している場合が多い)。前述のとおり、ポストIDFA時代において、ユーザーの行動パターンを理解して、広告のターゲティングの精度を高めることが今後ますます重要になります。
5) プライベートマーケットプレイス(PMP):プライベートマーケットプレイスとは、プレミアム媒体側が特定の広告主だけに限定して、自分たちの広告スペースを高値で販売することができることです。一方で、広告枠を買い付ける側は、優良プレイヤーを獲得できる広告スペースであると判断した媒体に対して入札額を上げることができます。
今回調査したゲームプレイヤーのジャンル嗜好は、デベロッパー、マーケティング担当者、アドネットワークにとって有益な情報となるはずです。ぜひマトリクス表をご活用ください。
ゲームジャンルの相関性を国ごとに整理したマトリクス表はこちらをご覧ください。
* ゲームジャンルはアプリストアのカテゴリをもとに以下のようにグループ分けをおこなっています:
ハイパーカジュアル(アプリストアにカテゴリなし):収益の90%以上が広告経由のアプリ(AppsFlyer調べ)
カジュアル:カジュアル、パズル、カード、ボード、ワード、教育、トリビア、家庭用、スポーツ
ッドコア:アドベンチャー、シミュレーション、アクション、アーケード、レース
ハードコア:ストラテジー、RPG
ソーシャルカジノ:カジノ(リアルマネーなし)