SKAdNetworkに関する独自調査:非オーガニックインストールの32%が間違って計測
今回、AppleのSKAdNetworkがアトリビューションの計測精度にどのような影響を与えるのか独自の調査を実施したところ、SKAdNetworkは非オーガニックのアクティビティ(インストール、収益、アプリ内イベント)に大きな影響を与える可能性があることが見えてきました。
驚くことに、SKAdNetworkでは非オーガニック経由のインストールをわずか68%しか捉えていない、つまり32%ものインストールが間違って計測されていることが判明しました。ここで本題に入る前に、SKAdNetworkの問題点を少しだけおさらいしておきましょう。
SKAdNetworkのメリット・デメリット
Appleは2020年6月末に、個人を特定できないかたちで広告キャンペーンの効果計測ができるSKAdNetworkの導入を発表。けれどSKAdNetworkが加わることによって、iOS 14の広告の効果計測に支障がでたり、広告パフォーマンスの最適化が妨げられるのではないかと、各方面で疑問の声があがっていました。
いま言えることは、SKAdNetworkがiOSアプリの広告運用におけるアトリビューションの主要な計測方法として用いられることは間違いありません。SKAdNetworkにはメリットがいくつもあり、その最たるものがATTやIDFAを利用しなくても効果計測ができるというユーザーのプライバシーを最優先している点でしょう。
その一方で、SKAdNetworkには計測できる範囲に制限がともなうという欠点があります。詳細な仕様が明らかになっていないなかで、アプリ開発者たちのもっとも大きな不安要素はAPIにかかるコスト面や、SKAdNetworkの制限によって従来と同じ効果分析ができなくなること。そこでAppsFlyerでは広告主がiOS 14の変更に対応できるようにと、2020年9月はじめにSKAdNetworkで受け取るアトリビューションデータを疑似体験できる「SKAdNetworkシミュレーションダッシュボード」をリリースしました。
わたしたちはこのシミュレーションダッシュボードのおかげで今回の調査を実施し、こうした疑問に対する答えを導き出すことができました。
AppsFlyerの仮説:非オーガニックがオーガニックとして誤って分類される
SKAdNetworkに関する疑問をひも解くため、データを細かく検証。検証前にはSKAdNetworkで計測できるデータが限定的であるがゆえにアトリビューションの精度が落ちるとの仮説を立てました。
【SKAdNetworkで計測できる範囲】
- アプリからアプリ、もしくは直接クリックからインストールにつながるフローのみ
- アプリインストール後24時間以内に発生したイベントのみ(タイマーの延長とトレードオフを導入している場合を除く)
【SKAdNetworkで計測できない範囲】
- ウェブからアプリへの移行
- リエンゲージメント
- ビュースルーや遅延クリックスルー
- ROI(投資収益率)
これらのことから、計測したインストール数、アプリ内イベント、収益、ユーザーの流入元のデータに支障をきたしていると推測。単刀直入に言うと、広告主がお金を払っている非オーガニックインストールとアプリ内イベントが、間違ってオーガニックとして分類されるのではないかと考えました。
検証をおこなう前は、影響範囲がどこまでおよぶのか、そしてアプリのジャンルによって影響度に差が出るのかについて、わたしたちも定かではありませんでした。
検証方法:従来のデータ vs. SKAdNetworkのデータ
検証対象:App Storeの主要なアプリジャンルの非オーガニックインストール、収益、アプリ内イベント
アプリジャンル:ファイナンス&フィンテック、ゲーム、ヘルス&ライフスタイル、メディア&エンタメ、音楽、ニュース・雑誌・カタログ、写真&ビデオ、ソーシャル、ネットワーキング、ユーティティ、Eコマース・リテール
サンプル数:各ジャンルから約30個のアプリ(1日500インストール以上)
計測期間:LTV(顧客生涯価値)ベースで30日以上
比較したデータは次の2つ:
- 従来のアトリビューションデータ
- SKAdNetworkを使用したアトリビューションデータ(1のアトリビューションデータをSKAdNetworkを通して計測※前述したSKAdNetworkの制限を含む)
上記2つのデータを比較して、SKAdNetworkが非オーガニックのデータを正しく評価できているのか検証しました。
検証結果
わたしたちの仮説どおり、SKAdNetworkでは非オーガニックのアトリビューションデータの精度が低くなることが今回の検証で判明。およそ34%もの非オーガニックのアクティビティがオーガニックとして間違って分類されており、影響度合いはアプリジャンルによってバラつきが見られましたが、全体的に精度が落ちていました。
SKAdNetworkがデータに与える影響は次のとおり:
- SKAdNetworkでは、平均32%の非オーガニックインストールがオーガニックインストールとして誤って分類される
- 分類ミスがもっとも多かったアプリジャンル:「写真&ビデオ」(44.6%の非オーガニックインストールがオーガニックインストールとして誤分類)と「メディア&エンターテイメント」(40.5%が誤分類)
- 分類ミスがもっとも少なかったアプリジャンル:「ゲーム」(21.8%が誤分類)
- SKAdNetworkでは、すべての非オーガニックインストールによる収益データ*を取得することができておらず、およそ64%の取得にとどまった
- 収益データのエラーがもっとも多くみられたアプリジャンル:「ファイナンス&フィンテック」(取得できた収益データは52.7%のみ)、「写真&ビデオ」(50.1%のみ)、「ショッピング」(51.2%のみ)
言うまでもなく、これらのデータ不整合を見過ごすわけにはいきません。広告主は投資しているマーケティング費用がムダになってしまう可能性があることを認識しておく必要があります。
SKAdNetworkは100%の解決策ではない
SKAdNetworkは、iOSアプリのアトリビューション計測に不可欠ではありますが、万全なソリューションであるとも言い切れません。広告主が必要としているデータと実際に取得できるデータに不整合がある限り、SKAdNetworkの改善が必要です。
SKAdNetworkだけに頼ることはできませんが、iOSアプリの主要なアトリビューション計測方法なだけに除外することもできません。
広告主がマーケティングの効果を正確に計測するには、SKAdNetworkだけでは不十分です。その欠点を補うためにも、確率論的モデリングやWEBキャンペーンからアプリへの誘導といったソリューションと組み合わせて使うことが重要だとわたしたちは考えます。これらのソリューションはそれぞれに異なる目的や特徴がありますが、SKAdNetworkと並行して使うことによってパフォーマンスの全体像を把握することができ、かつ効果計測を正しくおこなうことができるのです。
**収益の減少はアトリビューションにのみ確認できており、SKAdNetworkがLTV(顧客生涯価値)を捉えきれていないわけではありません。