2020年をデータで振り返る:モバイルアプリマーケティングのトレンドTOP 5
今年で4度目の投稿となるAppsFlyerのデータトレンドTOP 5ですが、今年は新型コロナウイルスの影響で異例づくしの年となりました。
コロナ禍でおうち時間やひとり時間が増えたことにより、モバイル端末の需要が世界的に高まりました。ゲーム、フィットネス、SNS、動画配信、ショッピングで気分転換する人もいれば、ファイナンス、ビジネス、フードデリバリー、ショッピングを日々の生活に役立てる人など、利用目的はさまざまです。
ここ数年でデジタル化は進んでいたものの、今回の新型コロナウィルス感染症の影響によってさらに加速しています。多くの企業がモバイルアプリの重要性に気づき、アプリ運用に乗り出すきっかけを作りました。
今年はAppleがiOS 14のリリースとともに新しいプライバシー保護に関する一連の規定を開始すると発表した年でもあり、業界全体に大きな衝撃が走りました。あまりに大きな衝撃だったため、Appleはこれらの規定の本格導入を2021年はじめまで延期することになりました。迫りつつあるプライバシー保護規定の導入は、2020年の広告キャンペーンにどのような影響を与えたのか?このブログにまとめましたので、ぜひご覧ください。
今回は、月5千件以上のインストールがあるアプリ3万個を対象に、2020年にインストールされた480億件のデータをもとに調査をおこないました。
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1) アプリダウンロード数は33%上昇、ユーザー獲得費用は746億ドルを突破
2) ロックダウン後のCPIは30%増、その結果非オーガニック経由のインストールは減ったものの広告支出は増加
3) アプリ内課金、アプリ内広告、サブスクといったアプリの収益が増加
4) 非ゲームアプリはオーガニックの流入が圧倒的に多く、ゲームアプリは新規ユーザー獲得で大躍進
5) 非ゲームアプリのインストールはおよそ10件に1件がWEBからのタッチポイントあり
<BONUS>iOS 14のプライバシー保護強化はいまだ広告キャンペーンに影響なし
1) アプリダウンロード数は33%上昇、ユーザー獲得費用は746億ドルを突破
今年グローバル全体でアプリマーケターがユーザー獲得にかけた費用は746ドル億にのぼります。2月に見込んだ762億ドルにはわずかに届きませんでしたが、それでも前年と比較して30%増えました。
プラットフォーム別に内訳をみると、Androidが485億ドル、iOSが260億ドルという結果に。AppleのOSは、CPI(インストール単価)がAndroidの2倍以上あるため、非オーガニック経由のインストールの割合が18%なのに対して支出が35%を占めています。
モバイルアプリの需要はますます高まっているにもかかわらず、予算をリマーケティングにつぎこんだことで広告費用がかさみ、マーケターが成果をあともう一歩あげる際の妨げになりました(詳しくは2番目のトピックに記載)。
2020年のアプリダウンロード数は33%上昇し、前年と比較すると25%増となりました。オーガニック経由のインストールとリマーケティングの効果が大きな要因であることがわかります。
しかし、データをもう少し詳しく見てみると逆の傾向が見えてきました。今年、広告を経由した非オーガニックのインストールは27%落ち込む一方で、広告を経由しないオーガニックのインストールは約60%も跳ねあがりました。
また、リマーケティングからのインストールも増加傾向にあることがわかります。これには次の2つが関係しています:1) リマーケティング広告のコストがはるかに安価なのに対して、CPIが跳ね上がったこと。2) 既存ユーザーを維持することが厳しい中、継続率が高いロイヤルユーザーの確保に集中したこと。
2019年はリマーケティングの収益が爆発的に伸びた年でした。その勢いを維持することは難しく、2020年のリマーケティングの収益は前年の半分に縮小しましたが、それでも82%という高い数字を記録しました。
コロナ禍にあった今年一年を掘り下げてみると、3月~4月のロックダウンがいかに異例な時期だったかがうかがえます。マーケターにとっては特にそうで、収益の増加率は8月~10月と比べて2倍になりました(2020年3月~4月の非オーガニックインストール数は前年同期と比べて57%増、一方で2020年8月~10月は29%増にとどまった)。
2) ロックダウン後のCPIは30%増、その結果非オーガニック経由のインストールは減ったものの広告支出は増加
次に、広告にかかる費用がどれだけマーケティング活動に影響を与えたかを見ていきましょう。
ロックダウン初期の3月~4月は、需要がいちばん高まっていた時期であり(特にハイパーカジュアルゲームなどのすぐに遊べるゲームアプリ)、マーケターはこぞってアプリの利用を促進しました。不安定な状況下において、強いブランド力のある大手企業がマーケティングを控えたため、CPIが低かったことが功を奏し、アプリ事業が規模を拡大する後押しをします。
けれど5月頃から各国のロックダウンが緩和されると、徐々に不安も解消されてか大手企業が動きを再開しはじめ、デジタル化に乗り出していたその他の企業は、これまで以上に急ピッチで進まざるをえなくなります。冒頭でも触れたように、コロナ禍はいたるところで急速な変化をもたらしました。
その結果、新規ユーザー獲得に向けた競争が激化し、4月~11月の間にCPIは30%増となりました。この傾向はSRN(セルフアトリビューションネットワークとも呼ばれ、FacebookやTwitterのような、APIを介してアトリビューションイベントを送信する媒体)とその他メディアソースの両方で見て取れます。アプリマーケターの多くが同じジャンルの競合他社を意識する傾向にありますが、実際のところは与えられたプラットフォームで広告を出す限り、業界・ジャンルに関係なく誰もがライバルであるということです。
広告費がだんだんと上昇するにつれて、非オーガニック経由のインストール数は減り(非オーガニックほどの減少はなかったが、ロックダウン中のモバイル利用率の増加によってオーガニックのインストール数も減)、その合計インストール数は4月のピーク時から11月にかけて22%減となりました。
また新規ユーザーの獲得数が低迷すると同時に、リマーケティングは安価のまま順調に伸び、早い時期に獲得した大勢の新規ユーザーにリマーケティングを試みることができました。まとめると、アプリのリマーケティングコンバージョン率(リマーケティング広告をクリックしてアプリを起動したユーザー数)は3月から11月にかけて70%も跳ねあがりました。
支出額の増加は新規ユーザー獲得にかかった費用からも見て取れます。非オーガニックのインストール数が減少したのに対して、10月~11月の予算は6月と比べて25%増加しています。下半期の大半は、広告費用が伸びているのに対し、ユーザー獲得数は減少しています。
3) アプリ内課金、アプリ内広告、サブスクといったアプリの収益が増加
2020年はアプリの利用者数が急激に伸びたことにより、収益源が拡大しました。
いちばんの収益源であるアプリ内課金(IAP)を見ると、全体的に収益は伸びてはいるが、ゲームアプリと非ゲームアプリではロックダウン初期に異なる動きがありました(それぞれを個別に分析)。
主に大手の非ゲームアプリは、不安定な状況を危惧してマーケティングのコストを削減もしくはストップしました。最初のロックダウン実施時は、消費者側も生活必需品のみを求める人がほとんどでした(この時期、スーパーなどの食料品・日用雑貨を販売するお店だけが営業していた国もあった)。ロックダウン後、ニューノーマル時代の訪れとともに非ゲームアプリの売上が徐々に伸びはじめ、11月までに35%上昇。
それに対し、ゲームアプリのアプリ内課金は早い段階から増えています。ロックダウン中にマーケターが新規ユーザー獲得に向けて積極的に働きかけた結果、ゲームアプリをインストールした新規ユーザーは一気に増え、ゲームアプリはその後数か月にわたり、アプリ内課金を支える課金プレイヤーから収益を得ることができました。
ゲームアプリのアプリ内広告(IAA)も一年を通して収益を伸ばしており、ロックダウン中にピークを達し、7月以降からは30%上昇しています(非ゲームアプリのアプリ内広告はサンプルサイズが小さいため記載なし)。
広告収益の大半がCPIとセッション数に関連しています。ロックダウンのピーク時以降、アプリのセッション数は減ったが、CPIは大きく上昇し、それに伴いパブリッシャーのCPM(広告が1,000回表示されるごとにかかる広告コスト)もあがりました。
サブスクリプションサービスの収益は、3月から徐々に伸びはじめ、4月時点ですでに2月と比較して40%増加しています。自宅にいることが多くなり、音楽や動画コンテンツを楽しむかたわら、ヘルスケア、書籍・教育、マッチングアプリなどのサービスに登録する人が増えました。サブスクリプションモデルの一般的なアプリは2020年の収益が56%上昇、大手のアプリにいたっては約2倍増になりました。
4) 非ゲームアプリはオーガニックの流入が圧倒的に多く、ゲームアプリは新規ユーザー獲得で大躍進
ジャンルが異なるアプリのオーガニックインストール数の伸び率を前年と比べると、今年のコロナ禍の様子がうかがえます。
物理的に離れていても交流を求め(SNS)、リモートワークを受けてさまざまなビジネスツールを使いこなし(ビジネス・ユーティリティ)、その他にも買い物、動画視聴(メディア・エンタメ)、ワークアウトやこころのケア(ヘルスケア)、オンライン学習(書籍・教育)、ゲームなど、世界中でありとあらゆるアプリが利用されました。残念ながら、旅行アプリは苦戦する年となりましたが、ここ数か月で少しずつ回復の兆しを見せています。
ジャンルによっては高まるニーズを逃さないようにと、広告費を倍増しているところがあります(例:書籍・教育、ゲーム)。オーガニックインストールのおかげで上昇したところもあれば(例:ライフスタイル、ヘルスケア、ショッピング)、非オーガニックインストールが伸び悩んだところもありました(例:ライフスタイル、ヘルスケア、ショッピング、ユーティリティ)。いくつかのジャンルで非オーガニックが伸び悩んだ理由は、チャンスを逃してしまったか、もしくはオーガニック経由のインストールを犠牲にしたくなかったのかもしれません。
次は、国別に見てみましょう。非オーガニックインストールの成長が著しい市場を見ると(総インストール数で上位30か国を並べ替え)、中東をはじめ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカと、世界各国で大きく成長があることがわかります。
非オーガニックインストールよりも、オーガニックインストールの数が圧倒的に多い市場は(日本、フィリピン、イラン、サウジアラビア、インドネシアを含む)成長するチャンスを秘めています。世界最大のアプリ市場とも言えるアメリカでさえ、オーガニックインストール数の方が75%高くなりました。
5) 非ゲームアプリのインストールは10件に1件がWEBからのタッチポイントあり
2020年現在も、いまだにユーザーの行動とマーケティング活動の計測方法に大きな溝があります。
ユーザーがコンバージョンへ至るまでのカスタマージャーニーは、複数のデバイスやタッチポイントを経由してさらに複雑化しています。その一方で、複数のチャネルやデバイスでユーザーの行動を計測するマーケターもいるなかで、その大半がチャネルやデバイスを個別にしか計測できていません。
けれど今回、主にEコマース、ファイナンス、メディア・エンタメ、フード・ドリンクといった45のアプリを分析したところ、今年WEB(モバイルWEBを含む)にタッチポイントがあったアプリのインストール数は2倍増となっており、およそ10件に1件のインストールがWEBを経由していることがわかりました。
これはマーケターにとっては朗報です。なぜなら、広告費が比較的安いWEBからユーザーを取り込んで、そこからサイト内のボタンやメール配信といったオウンドメディアのプロモーションを活用してユーザーをアプリへと誘導できるからです。
これも一種のマーケティング手法。マーケターたちに共通していることがひとつあるとすれば、それは1人でも多くのユーザーを取り込むためなら、どんな手法もムダにしないということかもしれません。
<BONUS>iOS 14のプライバシー保護強化はいまだ広告キャンペーンに影響なし
Appleは今年の6月にiOS 14にプライバシー保護を強化する一連の規定を加えることを発表し、アプリ業界全体を動揺させました。新たに導入されるAppTrackingTransparencyフレームワーク(ATT)は、IDFAの取得にユーザーの同意を必須とします。
これは事実上、IDFAを広告の効果計測に利用できなくなることを意味します。10月に調査を実施したとき、99%のユーザーがIDFAの取得を同意するかアプリで聞かれる際、トラッキングを拒否することがわかりました。
Appleはこの新たな規定を導入する時期を2021年はじめまで延期することを決め、業界内には安堵の声があがりました。
動揺はあったものの、アプリ側に準備期間が与えられたことで、マーケターはこれまでと変わらず広告を配信して効果計測をおこないました。その結果、以下のデータにもあるように、iOS 14のアップデートは今の段階でユーザー獲得およびリマーケティングの広告配信の決め方に影響は及ぼしていないようです。
今年のユーザー獲得にiOSだけで$260億もの広告費が費やされました(詳しくは1番目のトピックに記載)。来年のデータトレンドTOP 5の内容も変わること間違いなしです。
みんなの疑問「2021年はどんな年に?」
未来を予測することは難しいですが、2021年はさらに予測不可能なことばかりです。たとえワクチンが供給・実用化されたとしても、私たちの生活は引き続きコロナによって制限されることが予想できます。家計やビジネスを圧迫する不安定な経済状況は長期化するでしょうし、ユーザーの消費額にも影響を及ぼすことでしょう。
とはいえ、ソーシャルディスタンスがきっかけでデジタル化は進み、モバイルアプリ業界に経済的なチャンスをつくり出していることは確かです。2021年に新型コロナウィルスが終息したとしても、デジタル化が急速に発展したことは事実であって、モバイルアプリを生活の一部として取り入れた人は世界中に数多く存在し、すでに私たちの生活の中に浸透しています。
経済状況とは関係なく、iOS 14対応の一環として導入されるATTフレームワークは、アプリマーケティングの領域や広告効果の計測方法に大きな影響を与えることでしょう。
Appleは数多くの疑問点について何も明らかにしていません。広告効果はどう計測されるか、広告収益にどう影響が出るのか、ここ数年で急成長を見せたリマーケティングは今後どうなるか、機械学習を導入している広告プラットフォームはどうなるかなど、アプリマーケターも不確かな状況下で試行錯誤しています。
IDFAを取得できなければ、それ以外の計測方法に重きが置かれ、特に集約型アトリビューションや、インクリメンタリティー、確率論的モデリング、Web-to-Appなどが重要になってきます。
つまり、変化はイノベーションを生み出す追い風になるということ。これからの広告効果計測ツールは、プライバシーを最優先して、個人の関心に狙いを絞った追跡型の広告は制限され、データドリブンなパフォーマンスマーケティング手法に変わっていくでしょう。