iOSとコロナ流行で高まるWEBの存在感
去年から繰り広げられていたAppleのプライバシー強化をめぐる問題も、今年に入ってようやく落ち着いてきました。表面的には業界内でまだ混乱が続いているような状況に見えるかもしれません。
けれどもAppsFlyerのクライアントとの会話やAppsFlyerが2020年に実施した調査データによれば、アトリビューション計測のルールが大きく変わることについて、広告主たちのあいだで理解がしっかりと浸透していることがうかがえます。オウンドメディアを活発化させることや、これまでバラバラだったタッチポイントをつなぎあわせようと戦略を立てている広告主が増えています。
iOS 14の発表以来、広告主が注目しているマーケティング手法のひとつにWEBからアプリへの誘導(以下「WEB-to-APP」と呼ぶ)があります。WEBにたどり着いたユーザーを、いかにアプリへと誘導し、アプリユーザーとして定着させるかを考えるものです。
WEB-to-APPがどうして注目されているのかというと、消費者のあいだで新たな行動パターンが生まれていることや、それを受けて広告主の中でWEBの重要性が再燃しはじめているというのが我々の見解です。 とりわけモバイルウェブは、消費者が検索をはじめるスタートポイント。企業が提供する商品やサービスを知るきっかけをつくる重要なタッチポイントであることを広告主も十分に理解しているようです。
WEBは消費者にとってインストール前のタッチポイント
消費者の行動パターンについては昨年末に公開した「モバイルアプリマーケティングのトレンドTOP 5」の記事でも紹介しているとおり、2020年にはWEBを経由したアプリインストール数は10%にのぼります。
計測期間中に有効だったアプリ
この傾向の面白いところは、消費者側が先につくったトレンドであるという点です。広告主側が積極的にWEB-to-APPの戦略を打ち出した結果ではなく、広告主があとに続く形です。なかにはWEB-to-APPを試行している広告主もいますが、消費者をWEBからアプリユーザーへ切り替えることを狙っている広告主は極めて少数です。
消費者のあいだでWEB-to-APPが増えている理由はいくつかあります。
- 賢さを増す消費者:あらゆる層の消費者がスマホやモバイル端末を使って検索することに精通してきています。WEBは情報の宝庫であり、リサーチにはうってつけです。Eコマース、旅行、飲食系のジャンルにいたっては、WEBとアプリの両方を何度も行き来することが多く、購入までの経路をたどることが難しい傾向にあります。これらのジャンルは、Googleが昨年公開した調査レポートで定義されている「無秩序な中間地点(Messy Middle)」に該当します。Googleの調査はWEBにおける消費者の購買行動に関するものでしたが、アプリ上でも共通して言えることです(例:検索ボックスにキーワードを入力して検索がはじまる点など)。
- 新型コロナウィルスの影響:コロナ禍を受けて、スマホやモバイル端末からネットサーフィンする人が大幅に増えました。リサーチ目的でまずはWEBを使い、実際に買い物、仕事、運動、遊びなどの具体的にやることアプリで決めます。
- WEB-to-APPを促す広告:広告主はFacebookやGoogle Adsなどの有料広告やメール、SMS、QRコードといったオウンドメディアを活用して、まずは消費者を自社サイトにたどり着くよう誘導しています。翌4年間にモバイル広告は40%以上増加することが見込まれています(eMarketer)。モバイル広告が増えれば、WEBを訪問する消費者も増えることが予想できます。
WEBは広告主にとって重要なメディアチャネル
消費者が購入またはアプリをインストールする前に、WEBを訪れるオーガニック検索があるため、広告主のあいだでは広告予算の使いどころが変わってきている様子がうかがえます。少し前にAppsFlyerで実施したアンケート調査(英語)によれば、「モバイルの広告予算を調整するか」という質問に対して、19%のアプリマーケターが「積極的におこなう」、41%が「ある程度おこなう」と回答。AppsFlyerのクライアントが新規顧客獲得やエンゲージメントのためにWEBを活用することに対して前向きでいることがこのアンケート調査からわかりました。
WEB-to-APPの動きはまだはじまったばかりですが、ここで広告主がWEBに関心を示している理由を5つご紹介します。
- コスト削減:アプリキャンペーンの代わりに(もしくは並行して)WEBキャンペーンを活用してコストの削減と費用対効果(ROI)の向上を模索している。
- リテンション率アップ:WEBを介して商品やサービスについて細かく理解してからでないと、消費者はアプリをインストールしないことを把握している。
- WEBから会員登録:メディア・動画配信サービスといったサブスクモデルを導入している企業は、消費者をアプリへ誘導する前に、WEBから会員登録・支払いを完了してもらうことを好む傾向にある。
- ターゲットを拡大:FacebookやGoogle Adsなどの一部プラットフォームでは、アプリ広告とモバイル広告の両方が表示されることが少ない。
- IDFAとSKAdNetwork:iOS 14による変化に屈することなく、アトリビューション計測会社と協力して広告の効果計測を継続する努力をしている。IDFAのゼロ化やSKAdNetworkの制約があっても、WEB-to-APPの一連の流れを可視化することで、iOS 14が本格導入されたあとも、広告主は新しいマーケティング手法を活かすことができる。
クロスチャネルがデジタルトランスフォーメーションを促進
最後に、前述した5つのポイントとあわせて、従来のWEBとアプリの構図が崩れてきていることが見えてきました。AppsFlyerのクライアントは、消費者のタッチポイントがモバイルサイト、WEBサイト、アプリ、メール、SNS(厳密に言えばこれもアプリ)と広範囲に拡散していることを把握しています。このように、消費者が商品やサービスを検索する際に複数のチャネルを行き来する入り乱れた構図をGoogleは「無秩序な中間地点」と説明しています。
Googleの「無秩序な中間地点(Messy Middle)」
2020年に起きたiOS 14やコロナによる影響を受けて、消費者と広告主がWEB-to-APPに乗り出し、さまざまな変化が重なったことでデジタルトランスフォーメーションが少しずつ動き出しています。
実際にどういった動きを見せているかというと、各企業がWEB-to-APPの接点を洗い出し、消費者をスムーズにWEBからアプリへ誘導できるように設計や導入を見直し、またWEB-to-APPを計測できるよう取り組みを進めています。
次回予告
今回のブログでは、2020年に起きた一連の変化と、それに伴う消費者の行動パターンと広告主の施策の変化があわさって、WEBの需要が再燃したと説明しました。次回のブログでは、実際にどういった企業がWEB-to-APPを活用しているかご紹介したいと思います。お楽しみに。